役員借入金を減らす5つの方法|増えすぎたときのデメリットを解説
会社の厳しい資金繰りを安定させるために、社長や役員が会社に資金を入れたり、役員報酬を未払いにしたりするといった対策をおこなうことがあります。
しかし、役員借入金の増えすぎには、さまざまなデメリットがあるので注意が必要です。
この記事でわかること
・役員借入金が増えすぎたときのデメリット
・役員借入金を減らす方法
役員借入金を減らしたいが方法がわからないとお悩みの方は、ぜひ最後までご覧ください。
役員借入金が増えすぎたときのデメリット
役員からの借入は、金融機関のような特別な手続きをする必要がなく利用しやすいため、いつの間にか残高が増えすぎてしまうことがあります。
しかし、役員借入金が増えすぎると、問題が発生するおそれがあるので注意が必要です。
役員借入金が増えすぎたときの、おもなデメリットを3つ解説します。
①金融機関の印象が悪くなる
②取締役会の承認が必要になる
③相続税の対象になる
①金融機関の印象が悪くなる
役員借入金が多いと、金融機関の印象が悪くなります。
そもそも役員借入金は負債の勘定科目です。
負債が多い会社は安全性が低いと評価されてしまいます。
評価の根拠として、役員から資金を借りる理由の1つに、資金繰りがあげられることです。
多額の設備投資をするなど、臨時の借入であれば評価に大きな影響を与えません。
しかし、役員借入金が増えすぎているという状況は、慢性的に資金繰りが悪化していると分析できるので、金融機関に悪い印象をもたれ、融資がしづらくなってしまいます。
一方、資金繰りが悪いわけでなくても、役員借入金が増減するケースがあります。
たとえば、役員が個人で立て替えた会社の経費を精算していなかったり、会社のお金で役員個人の支出を支払ったりした場合です。
このような会社は、役員が会社を私物化し、管理がずさんだと金融機関に判断される可能性があります。
②取締役会の承認が必要になる
役員が役員借入金の利息を会社から受け取る場合、利益相反取引となるので、取締役会の承認が必要になります。
取締役による会社との利益相反取引とは、取締役が会社から利益を得ることで、会社が損をするような取引のことです。
会社法では利益相反取引を制限しているため、このような取引を行う場合には、取締役会の決議による承認を受けなければなりません。
また、正当な手続きをしていない状態で、会社に税務調査が入った場合、役員への支払利息が否認されるという税務上のリスクもあります。
取締役会議事録など利益相反取引を証明する書類がなければ、役員への不当な利益供与や架空経費を疑われてしまうからです。
もし否認されると会社には追徴課税が、役員にもペナルティが課される場合があります。
このように役員借入金に利息をつけると、金融機関からの借入よりも手続きが複雑になり、リスクも高くなってしまいます。
③相続税の対象になる
役員借入金は、役員にとって債権(財産)です。
もし役員が亡くなると、役員借入金も相続財産となり相続税の対象になります。
相続税は、役員借入金の返済予定の有無にかかわらず、亡くなった日の残高で計算します。
つまり、役員借入金が増えすぎて返済の見込みがなくても、相続税では財産としてみなされ、多額の相続税がかかってしまう可能性があるのです。
一方、会社にとっても、役員が亡くなれば借入金もなくなるわけではなく、相続人へ継続して返済しなければなりません。すなわち、資金繰りに悪化につながります。
このように役員借入金が増えすぎると、相続税や返済の負担が重くなり、相続人にとっても会社にとっても悪影響となります。
増えた役員借入金を放置せず、相続にむけて役員借入金を減らす対策をする必要があるでしょう。
役員借入金を減らす5つの方法
役員借入金を減らすための方法を、5つ紹介します。
役員借入金が増えすぎている場合は、早急に対策しましょう。
①役員報酬を減額して返済にあてる
②債務免除をする
③後継者へ贈与する
④DESを活用する
⑤代物弁済を活用する
①役員報酬を減額して返済にあてる
役員借入金を減らす方法として、まずは役員報酬を減額しましょう。
そして、その浮いた支払い分を借入金の返済にあてます。
例えば、役員報酬月額35万円を30万円に減額し、減らした5万円で役員借入金を返済したとします。
すると、役員報酬は年間で60万円削減できるので、利益が60万円増えます。
一方、役員借入金も年間60万円減らすことができますが、損益には影響しません。
よって、利益を増やすことと役員借入金を減らすことを同時に達成することができます。
特に、この方法は赤字決算の会社にとって効果的です。
役員報酬を返済にあてる方法は、役員の手取りを減らさずとも、会社の黒字化に貢献します。
また、役員個人にとっても節税のメリットがあります。
役員報酬には、所得税や社会保険料が課されます。
しかし、借入金の返済は単なる資金の移動であるため、返済金を受け取っても税金はかかりません。
ただし、役員報酬の減額には適正な時期での改定と株主総会の決議が必要です。
手続きを忘れないよう計画的に対応しましょう。
②債務免除をする
役員が債務免除(借入金の放棄)をすることも、役員借入金を減らす方法の1つです。
返済を待つよりも、一度に大きな金額を減らすことができるので、相続税対策に効果があります。
ただし、債務免除をすれば当然ながら返済されません。
また、場合によって贈与税が発生することがあるので、多額の債務免除をするときは専門家に相談しましょう。
一方、会社は債務免除された金額を債務免除益として利益に計上します。
特に、この方法も赤字決算の会社にとって有効です。
債務免除益は法人税の対象となりますが、赤字であれば法人税の負担なく役員借入金を減らすことができます。
また、繰越欠損金の期限切れが近づいている場合も同様に、債務免除をおこなう最適なタイミングです。
③後継者へ贈与する
暦年贈与を活用して生前に役員借入金を後継者へうつしていけば、税金がかからずに役員の財産を減らすことができるので、相続税の対策になります。
暦年贈与とは、年間の贈与額をもとに贈与税を計算する方法で、贈与額が110万円以下であれば贈与税がかかりません。
一方で会社にとっては、借入金の債務者が変わることで、相続対策のために返済を急かされるようなケースを先延ばしにすることができます。
なお、暦年贈与については令和5年税制改正で、令和6年1月1日以降の贈与における相続税の持ち戻し期間が3年から7年に延長されました。
生前贈与が持ち戻し期間の対象になると、相続税の節税効果はなくなってしまいます。
役員借入金の贈与を検討されている方は、早めに専門家に相談し対策をおこないましょう。
④DESを活用する
DESとは、Debt Equity Swap(デット・エクイティ・スワップ)の略で、債務と資本を交換する方法です。
具体的には、役員借入金を返済する代わりに、現物出資を受けたとして役員に新株を発行する手続きをおこないます。
この方法では、実際に資金を動かすことなく役員借入金を減らすことができ、会社の資本金は増えるので、外部からの安全性の評価が高くなります。
しかし、DESにはいくつか注意点があるので、あわせて確認しておきましょう。
・増資後の資本金の金額によっては、税金の負担が増える可能性がある。
・現物出資は時価評価であるため、債務消滅益が発生すると法人税が課される。
・複数の株主がいる場合、みなし贈与に該当する可能性がある。
・現物出資額が500万円を超えると、専門家による調査証明手続きが必要になる。
⑤代物弁済を活用する
会社に返済する資金がない場合には、代物弁済を活用して役員借入金を減らすこともできます。
代物弁済とは、会社と役員の合意のもと、現金以外のもので返済する方法です。
会社の資産であれば、不動産や自己株式、在庫商品などを役員に渡して、役員借入金を相殺することができます。
ただし、代物弁済の金額の評価に注意しなければなりません。
会社と役員の間で都合のいい金額で取引していないか、税務調査で必ず確認されるからです。
代物弁済は公正な時価評価で金額を決定し、その計算根拠となった資料も保管しておきましょう。
また、代物弁済は税金の取り扱いにも注意が必要です。
たとえば、譲渡資産によっては、会社が売主、役員が買主、免除される役員借入金を資産の売却価格として考えるため、消費税が発生する可能性があります。
詳しくは専門家にご相談ください。
【まとめ】役員借入金が増えすぎる前に対策しよう
役員借入金が増えすぎると、さまざまな問題が発生します。
特に、相続税は早めに対処しておかないと、相続発生時の税金が高額になりかねません。
役員借入金は増えすぎる前に、対策することをおすすめします。
「会社にとっての役員借入金を減らすベストな対策が知りたい」
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