法人成りにおける資産引継ぎ|具体的な方法と注意点まとめ
個人事業主が法人を設立して、その法人に資産と事業を引き継ぐのが法人成りです。
事業を引き継ぐことが、法人成りの特徴であり、通常の会社設立と異なる点でもあります。
法人成りで資産を引き継ぐときに注意すべきポイントは、次の3つです。
・どのような方法で引き継ぐか
・どれくらいの金額で引き継ぐか
・どのような手続きや税務処理が必要か
この記事では、引継ぎ方法など注意ポイントを解説し、税金がかかるケースも紹介します。
法人成りを検討されている個人事業主の方は、ぜひ最後までご覧ください。
法人成りにおける資産引継ぎ3つの方法と注意点
法人成りをするうえで、個人から設立した会社へ資産を移す必要があります。
一般的に個人の資産をすべて法人の資本金にすれば、面倒な手続きは発生しません。
いわゆる出資です。
しかし、高額な不動産がある場合などは、出資額が500万円以上になりやすく専門家に現物の評価をしてもらわなければならないため、処理がはん雑になります。
そのため、資産の引継ぎ方法は工夫しなければなりません。
工夫した資産の引継ぎ方法は、おもに以下の3つの方法です。
注意点とあわせて解説します。
①売買契約
②現物出資
③賃貸借契約
引継ぎ方法①売買契約は売買金額に注意
売買契約とは、個人事業主が法人へ資産を売る方法です。
必要な手続きは売買契約書を交わすことで、シンプルにわかりやすく引継ぐことができます。
しかし、売買金額に注意しなければなりません。
第三者との取引ではないため、すべての資産の金額を自由に決めることができますが、時価と比べて高すぎたり安すぎたりすると、個人もしくは法人に利益を与えたとして税務署に指摘されるおそれがあります。
時価がいくらなのかを参考にして、売買金額を決めましょう。
引継ぎ方法②現物出資は出資額に注意
現物出資とは、個人事業主の金銭以外の財産を法人に出資する方法です。
法人側に個人の財産を買い取る資金がなくても実行できる方法で、法人の資本金を増やすことができます。
しかし、出資額に注意しなければなりません。
現物出資額が500万円を超える場合は、出資した現物出資の価格について、裁判所が選任する検査役(弁護士や公認会計士など)に調査・証明をしてもらう必要があります。
現物出資は資産の評価額を確認してから実行しましょう。
引継ぎ方法③賃貸借契約は個人の申告に注意
賃貸借契約とは、個人事業主の資産を法人に貸す方法です。
手続きは賃貸借契約書を交わすことで、この方法もシンプルに法人へ引継ぐことができます。
しかし、個人が法人から賃借料を受け取る場合には注意しなければなりません。
資産の所有者はあくまで個人なので、その資産を貸すことにより法人から受け取る賃借料は確定申告の対象となります。
たとえば、自宅の一部を事務所として法人に貸した場合には、受取家賃は不動産所得として申告が必要です。
個人の確定申告を忘れないようにしましょう。
法人成りに税金がかかるケース
法人成りの際に、資産の引継ぎ方によって、税金がかかる場合があります。
税金がかかるおもなケースを3つ紹介します。
①法人に不動産取得税がかかるケース
②個人に譲渡所得の所得税がかかるケース
③個人に不動産所得の所得税がかかるケース
本来納税が必要であるにもかかわらず、税金の支払いや申告を忘れると、ペナルティを受ける場合があるので注意しましょう。
①法人に不動産取得税がかかるケース
法人に不動産取得税がかかるのは、個人所有の事業用不動産を、法人が法人成りのために個人から買い取るケースです。
不動産取得税とは、土地や建物を買ったときにかかる税金で、都道府県に支払います。
金額は固定資産税評価額という公的な価格を基準に計算されるので、個人から買い取った値段は関係ありません。
この評価額は時価よりも低いことが多く、土地の場合は時価の70%程度、建物の場合は50〜60%程度が目安とされています。
よって、不動産を買い取るお金を準備するときには、不動産取得税のお金も含めて計算しておきましょう。
ちなみに、不動産取得税は原則申告が必要ですが、令和5年4月1日以降は登記をすれば申告不要です。
都道府県から納付書が送られてくるので、忘れずに納付しましょう。
②個人に譲渡所得の所得税がかかるケース
個人に譲渡所得が発生するのは、個人が法人に固定資産を売るケースです。
また、現物出資をしても譲渡所得が発生します。
譲渡所得とは、次のように譲渡価格から取得費や譲渡費用、控除額を差し引いた金額で、所得税の課税対象です。
譲渡所得=譲渡価格-(取得費+譲渡費用)-控除額
固定資産を売った場合の譲渡価格は、原則その売却価格になります。
現物出資も同様に、固定資産を出資し、その対価として受け取った株式の価格を譲渡価格とします。
ただし、売却価格や出資価格が時価の2分の1に満たない場合は、時価で譲渡したものとみなされるので、譲渡所得は時価で計算しなければなりません。
いわゆるみなし譲渡です。
よって、不要な税金を払わないために、法人へ固定資産を移すときは、時価を調べてから売却価格や出資価格を決めましょう。
③個人に不動産所得の所得税がかかるケース
個人に不動産所得が発生するのは、個人所有の固定資産を法人に貸して、法人から賃借料を受け取るケースです。
受け取った賃借料は不動産事業の収入として、所得税の課税対象となります。
さらに、このケースについて注意すべきポイントは2つあります。
まず1つ目は賃借料の金額です。
賃借料は自由に決めることができますが、相場よりも高額すぎると、法人から個人への報酬とみなされ、源泉所得税がかかってしまいます。
そして2つ目は事業用部分を明確にすることです。
たとえば、個人の自宅の一部を法人の事務所として貸す場合、法人の事業用部分と個人使用分との線引きを曖昧にしていると、賃借料が法人の経費として認められないことがあります。
事業用部分を明確にし、価格相場などの情報を集めて、適正な賃借料で貸すようにしましょう。
法人成りにおける資産引継ぎの具体的な方法
法人成りの際には、個人事業の資産と負債を法人へ引継がなければなりません。
引継ぎ方を間違えると、税務調査で指摘されたり、税金が多額になったりする場合があるので、注意しましょう。
次に、具体的な資産引継ぎの方法を紹介します。
①現預金
現預金は、個人からの出資金もしくは個人からの借入金として処理します。
個人事業専用の銀行口座は、法人名義の口座に変更するまで、法人で使い続けることが可能です。
ただし、個人の私的な出費が混ざっている銀行口座は、法人には引継がないようにしましょう。
②売掛金などの債権
売掛金などの債権は、そのまま引継ぐことが可能です。
しかし、債権者の同意が必要であったりと処理がはん雑なので、引継がずに残すこともできます。
その場合には、個人として債権を回収し、その現預金を法人に引継ぐ処理をおこないます。
③土地、建物
土地や建物は、売買、現物出資、賃貸借のいずれかの方法で引継ぎますが、おすすめは賃貸借契約です。
売買や現物出資は譲渡所得が発生したり、登記費用などの費用がかかったりするためです。
ただし、業種によっては自己所有が要件の場合もあるので、事前に確認しましょう。
④車両、器具備品、機械
車両や器具備品、機械も、売買、現物出資、賃貸借のいずれかの方法で引継ぎます。
しかし、車両を法人に移した場合は注意しなければなりません。
名義変更や自動車保険の変更などの手続きが必要になります。
手続きがはん雑であれば、賃貸借契約を選択するといいでしょう。
⑤買掛金や未払金などの債務
買掛金や未払金などの債務は、基本的に引継ぎません。
個人事業の債務は個人で支払いを続けてください。
ただし、車やコピー機などのリース債務については、資産を法人名義にしなくてはならないため、リース料も適切な時期に法人支払いに切り替えましょう。
⑥借入金
金融機関からの借入金は、法人が引継ぎます。
その際の方法として「重畳的債務引受(ちょうじょうてきさいむひきうけ)」や「免責的債務引受」などがあります。
融資条件が不利にならないように、どの方法で引継ぐか金融機関としっかり交渉しましょう。
【まとめ】法人成りの資産引継ぎは税理士に相談
法人成りで資産を引継ぐときは、税務処理や時価の確認など、専門的な知識が必要になります。
手続きを間違ってしまうと、ペナルティを受ける場合もあるので、資産の引継ぎは税理士に相談するのがベストです。
「法人成りで資産を引継ぎたいが失敗したくない」
「法人成りで金融機関との交渉が不安だ」
このようなお悩みをおもちの方は、ぜひタックスボイスへご相談ください。
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